L&ウルキオラのための雑記帳

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help RSS 探偵M〜トップモデル殺人事件〜(7)

<<   作成日時 : 2010/01/24 00:10   >>

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 今回、たぶん前回以上に本文が長いような気がするので――前文のほうはまた短めにしたいと思います
 いえ、とりあえずおとついとか2章分アップしたりしてるんですけど、これは明日以降、更新できたりできなかったりすると思うので、出来る時にやっておこう!と思ったからだったりww
 ええと、そんなこんな(?)で今回の言い訳事項はというと、実際のファッションショーの裏側が本当にこんな感じなのかどーかっていうのは、ほぼわたしの勝手な捏造なんだと思ってください……っていうことでしょうか(^^;)
 いえ、このあたりのことに関しては、もう2〜3冊本を読んでおきたいな〜☆って思ってたんです。でもちょっと図書館へいってる暇がなくて、とりあえず何かを調べるでもなく「こんな感じ??」っていうイメージで書かせていただきました
 まあ、古典的にラスの着る予定だったドレスにまち針が刺さってたとか、通りすがりにシシリー・ファルケンバーグがどかっ!!とぶつかってくるとか――そういうことも考えなくはなかったんですけど(笑)、あまりにベタ☆なので、話の流れで立ち消えになってよかったような気がしてます(^^;)
 あと、ケイト・ミュアについては(2)のところで『※アメリカ編の第2章を参照のこと』って書いたんですけど、何しろ書いたわたし自身が「へ〜。こんなこと書いてたんだ!」っていう感じで読み返してましたwwあのあたりは特段あってもなくてもどちらでもいいエピソードだと自分でも思ってたので――今読み返してみても「なんかややこしいな☆」って自分でも本当にそう思います
<ミュア・ミュア>はプラダがモデルではないんですけど、ケイトの母が実兄に殺され云々……っていうのは、グッチ家にまつわるお話が頭の中にあって生まれました。誰もがその名を知る世界的に有名なグッチ・ブランドですが、親族間の抗争が激しくて、最後にはブランド後継者だったマウリツィオ・グッチさんがマフィアによって暗殺されたことにより――グッチ家の人間はグッチに関する事業に一切タッチできなくなったと聞いています。
 マウリツィオさんの暗殺というのは、彼の奥さんだったパトリツィアさんがマフィアに依頼して行われたもので、ブランド・イメージが大幅にダウンする、大変なスキャンダルだったんですよね。このマウリツィオさん、ブランド会社の社長なんていうと、金で女性を買ったりとか平気でしそーに思いますが、本当に真面目ないい人だったんだな……なんて、『グッチ家の崩壊』という本を読んでいて思いました。というか、外見はすごくイタリア男子(笑)みたいで格好いいのに、性格は実は内気っていう、そんな感じの人で――パトリツィアさんとはお父さんの反対を押し切って結婚しています。そして彼女のことを本当に愛していて、億単位(!)で奥さんに色々な贈り物をあげたりと、すごく優しい感じのいい旦那さんなのです。でも、パトリツィアさんのほうが悪女だったといいますか(^^;)、彼女はマウリツィオさんとの関係が冷えきって、彼が別の女性との再婚を考えていることがわかるなり……マフィアにマウリツィオ・グッチの暗殺を依頼したわけです。
 このあたりの経緯についてNHKの特集で見た時には、「まるでドラマのようだ☆」と思いましたし、ブランドの権利などを巡ってそれが兄や弟、叔父や甥、また夫と妻の間での殺し合いにまで発展してもまるでおかしくはない――それだけの巨額の富が絡んだ場合には血の繋がりなどいとも容易く糸のように切れてしまう……そのあたりがノンフィクションとしてすごく面白いと感じたんですよね(^^;)
 そんなわけで、ケイトが実の伯父さんに拉致・監禁されるっていう小さなエピソードが生まれたわけです。
 あと、それぞれのモデルのモデルというか(笑)、とりあえずケイト・ミュアはイメージとしてはケイト・モスがモデルだったりwwこれは外見的なことではなくて、あくまで全体的なイメージとしてっていうことなんですけどね(^^;)
 そしてリサ・クリスチャンセンの外形モデルはモデルのクリスティ・ターリントンで、マリア・アクアクランは女優のジェニファー・コネリーがイメージとして近い感じかもって思います。シャナイア・ローレンはキム・ベイシンガーとレベッカ・ローミンさんを足して二で割った感じかなあ……と思ったり(レベッカ・ローミンさんは、ブライアン・デ・パルマ監督の『ファム・ファタール』のイメージでお願いします!!^^)ロミー・ヒューストンの外形イメージに近いのはジェニファー・ロペスで、ヴェロ二カ・ノリスはナオミ・キャンベルを超一流から二流モデルに落とした感じ……そんなところでしょうか
 自分的にはあくまで、エンタメ系二次小説と思って何も考えず(?)に書いてるので、なんとなくノリ☆のようなものでストーリーを楽しんでいただけると嬉しく思います
 それではまた〜!!(^^)/
   

 ↓7巻のあのシーンを含みますので、ご視聴はご注意を!!この回は見るたびに胸が痛むので、ずっと見てなかったんですけど――やっぱり最初のLたんの耳に手をあてるポーズには萌え悶えてしまいますオリジナルの足拭きシーンは不評だったように記憶してるんですけど(^^;)、Lたんはきっとノートの検証さえ進めば必ずキラ☆を逮捕できるって確信してたんだろうなって思うと、本当に悔しくて悲しくてたまりません




          探偵M〜トップモデル殺人事件〜(7)

 人気ファッションブランド<ミュア・ミュア>のクリスマスショーがある前日、通し稽古(ラン・スルー)が行われることになっており、当然ラスもまたその場所に参加していた。
 ショーのリハーサルでは、モデルたちが着るために用意された服の数々が、キャスターの付いた衣装かけにズラリと並び、モデルひとりひとりに専任のメイクアップアーティストがつくということになっている。ラスのヘアとメイクはエミリアンが担当することになっていたが、彼女はすでに“スーパー”クラスのモデルだったからこそ自分の好きなヘアメイクアーティストを選べたのであり、また控え室として個室も与えられていたわけだが――他のトップクラス以下の中堅どころのモデルや新人モデルなどは、壁の一面が鏡張りとなっている部屋にいっしょくたにされ、そこで何人も関係者が出たり入ったりするという慌しい中、服を着替えたりメイクをしてもらったりという作業を余儀なくされていた。
 パリの有名ホテルのサロンを貸し切りにして行われるこのショーでは、スーパーモデルやトップモデルの登場の他に、見どころがいくつもあったといっていいかもしれない。まずひとつ目がハリウッド女優や業界筋の大物セレブ女性をゲストとして招いていること――つまり、今一番ホットな話題を世間に振りまいている女性たちが素人モデルとしてランウェイを闊歩するということ、ふたつ目がデビューと同時に鳥を落とす勢いのラップミュージシャン二人が音響関係を担当していること、三つ目がショーの半ばでプロのオペラ歌手やバレリーナが登場し、イエス・キリストの誕生を祝う劇を演じること……などだっただろうか。
 これ以外にもゴシップ記者にしてみれば、ポール・オルテガと元カノのケイトとの関係は今どうなっているのか、また<ミュア・ミュア>のショーに初登場するラスと彼女は裏舞台でどんな顔をして会っているのかなど、招かれた人物はショーの表舞台には出てこない事情をなんとかして知りたがっていたのである。
 とりあえず、クリスマスショーの前日であるこの十二月二十三日、リハーサルのほうはほとんど本番と同じ形で行われており、客席の中央には<ミュア・ミュア>のCEOであるサラ・デイヴィスや同じくミュアミュアの広報部や販売部など、部長クラス以上のスタッフが事細かく最終的なチェックを行っていた。当然のことながらこれはプロのファッションショーであって、ただのクリスマスの浮かれ騒ぎを演出するための喜劇などではありえない。ゆえにサラはデザイナーとして、ひとりモデルが出てくるたびごとに、「帽子を変えてちょうだい」とか「ネックレスを外すことにして」とか、あるいは「全部やり直さなきゃ駄目」といったように、逐一各部門のアシスタントに伝達事項を述べていった。
 この時、サラから具体的に何がしかの指示を与えてもらったアシスタントはまだしもラッキーなほうで、大体のところ彼女は「何かが違うわね」的なことを言うだけなので――<ミュア・ミュア>のファッション部のアシスタントは即座に楽屋裏へ走っていき、そのサラの言う『何か』を自分で考えてやり直しを行わなくてはならない。当然、服を変えればそれに従ってメイクもやり直さなければならず、モデルの中には何度も服を着替えたりヘアメイクを変えたりしているうちに、ヒステリーを起こす者さえいたくらいであった。
 そう……実をいうとサラ・デイヴィスは、モデルのことをただの洋服ハンガーとしか見なしてはいない。彼女の中ではスーパーモデルなどはさして価値がなく、そこらの公園か広場で顔立ちのいい若者を数十人集めて二週間も特訓すれば――自分の望む服をよく見せるための良きハンガーになれるだろうと考えているといったタイプのデザイナーなのである。
 もちろん、どこのファッションブランドのショーの舞台裏も同様の事情を抱えているというわけではまったくない。<ミュア・ミュア>の場合においては、例のケイトの母親の殺害事件があったのち、実質的にサラが会社内の権限を全面的に掌握する形となり、かなりのところCEOでありデザイナーである彼女のワンマン経営化が進んでいたという“お家事情”がある。
 そんな彼女が唯一まともに耳を傾ける相手といえば、自分が可愛がっている姪のケイトか、あるいは会社の経理関係のことであれば弁護士をしている実弟のエド――このふたり以外の意見というものを、自分の考え以上に高く評価するということはサラにはまずもって滅多になかったといってよい。
 ゆえに、サラの忠実なる手足である<ミュア・ミュア>のファッション・アシスタントたちは、サラが「あの口紅の色はあたしのデザインした服とはミスマッチよ」と言えば、平身低頭、彼女の意向をモデルやメイクアップアーティストに伝えなければならないという極めて厄介な役を引き受けているのである。ひどい時には何度着替えてもヘアメイクを変えても、サラが納得せずにショーのリハーサルが何時間も中断されるということは、これまでに何度も前例のあったことである。
 当然忙しい人気モデルなどはこのラン・スルーにそう時間をかけてはいられないわけだが、サラのこの完璧主義についてはファッション業界で知らぬ者もないほど有名な話なので、参加が予定されているモデルは全員、リハーサルのためにスケジュールをほとんど丸一日開けておかなければならない。何故といって彼女は遅刻したり早退するようなモデルは二度と起用しないと公言して憚らなかったし、実際サラは自分の提案で新人モデルのみをコレクションに起用し、大成功を収めたという経験がこれまでに何回となくあるのである。
 つまり、<ミュア・ミュア>のショーに出場したくばスーパーモデルであれトップモデルであれ、新人モデルとさして変わらぬ扱いを受けることを心得ていなくてはならないわけだが――それでもやはり、気位の高いモデルなどからは、不満の声が舞台裏では洩れていた。
「ちょっと、あのババア、あたしが誰だか本当にわかってるんでしょうね!?」
「はいはい、怒った顔もキュートよ、ロミー。ほら、こっち向いてちょうだい……チークを少し濃くして、次はこのカツラを被れば、女王様もきっとお気に召すことよ」
 メロは騒がしいショーの舞台裏で、そこにいる何十人ものモデルやスタッフたちが、おのおの自分のことしか考えていない現場を目のあたりにしつつ、少しばかり剣呑なことを考えていた。
 ようするに、アマンダ・ソアレスがもし、タリウムという毒物を自分の気に入らないライバルにでも盛ろうとしていた場合――この騒がしい慌しさの中で、誰にも気づかれずに事を完遂するのは実に容易ではないのかということを。
 だが、それと同時に捕まる公算も実に高いことを思えば、タリウムという毒物を何がしかの方法によって手に入れたものの、やはりためらうあまり、スイスの貸し金庫に放置したまま忘れていた……やはり、この事件はそういうことなのだろうか、ともメロは考える。
 なんにせよ、明日の夜の七時から九時まで約二時間の間ショーは行われるわけだが、その時間帯にはモデルやスタッフのうちの誰にもおそらくメロは話しかけるチャンスなどないだろう。みな忙殺されるあまり、彼の質問に答えることなど不可能だろうし、何か聞きたいことがあったとすれば、無駄に待たされる時間のやたらと長いこのリハーサルの間だけ……そう判断したメロが、出番待ちをしているヴェロニカ・ノリスに声をかけようとしたその瞬間のことだった。
「ハイ、メロ!!」
 衣装かけの隅に埋もれるようにしてチョコレートを齧っていたメロに対して、真冬にもタンクトップに下はデニムの短パンといった格好の若い女性が声をかけてきた――そう、他でもない<ミュア・ミュア>の次の後継者とみなされているケイト・ミュア本人である。
「久しぶりね。元気だった?まさかこんな場所であんたに再会できるとは思ってなかったけど……なに?もしかしてあたしの時と同じく大きな事件の捜査でもしてるってわけ?」
「まあ、そんなところだ」
 メロはいいところでケイトに会ったと思い、渡りに船とばかり、彼女のことを利用することを思いついた。
「俺は今、モデルのラスのボディガードをやりながら、アマンダ・ソアレスの死について調べてるんだが――当然ながらケイト、おまえならこの業界のあらゆる筋に顔が利くだろ?」
「そうね。この舞台裏全部があたしの庭みたいなものよ。ここでのあたしのおもな仕事は、無茶なことを言うサラの要望に答えるべく走りまわってるファッション・アシスタントに時々手を貸すっていうところかな。ヒステリーを起こしそうなトップモデルや大御所のメイクアップアーティストの機嫌をとりなしたり、とにかく場をまあるく治めるのがここでのあたしの主要な任務なの。もちろんモデルとしてランウェイのほうにも出るけどね、そっちのほうはまあオマケみたいなものよ」
 オマケ、などとあえて謙遜してケイトは言ったが、いまやケイトの一挙手一投足までが、マスコミやティーンの少女たちに常に注目されているといっても過言ではなかった。ケイトはファッション・アイドルとして絶大な人気があり、それはセレブ女性と同じく、どこか実体のない職業ではあるのだが、彼女の場合マスコミへの露出度=ファッションブランド<ミュア・ミュア>の株式への影響という点において、他のモデルとはやはり存在を異にしていたといっていいだろう。
「で、あんたはあたしを通じて一体何を知りたいの?」
 今この場でキスしてくれたら、なんでも教えてあげるわよ――とばかり、ケイトはメロに体を密着させてくる。彼女が実の伯父に誘拐・監禁されるという事件が起きてから、三年以上が過ぎた今、ケイトはあの時以上にメロのことを落とす自信があった。
 あれから何人もの男とのつきあいを重ねてきたケイトだが、自分がちらと色目を使っただけで落ちない男はひとりもいなかっただけに、唯一そうできなかったメロに対しては、今も未練があるのだ。
「そうだな。まずはヴェロニカ・ノリスに俺のことを紹介してくれないか?彼女はアマンダのモデル界での唯一の友人だったと聞いてる……彼女の出番までにはまだ時間があるし、ほんの少しでも話が出来るといいんだがな」
「わかったわ。だけどここであたしからひとつ提案。あんた、ここでは一時的にゲイっていうことにしたらどう?」
「なんだ?なんで俺が同性愛者になる必要がある?」
「決まってるじゃない。この舞台裏を見てみなさいよ。いるのは<ミュア・ミュア>の関係者かモデルかゲイのメイクアップアーティストのどれかってところよ。あんたがゲイっていうことにしておけば、色々と話がスムーズに進むの!じゃなかったら、いちいちモデルがあんたに色目を使ってきて、股間に手を伸ばすかもしれないでしょ」
「……おまえ、なんか微妙にキャラ変わったな」
(本当はそうじゃなきゃ、あたしが嫉妬でイライラするからだけど!)と、ケイトはその本音の部分は隠しておいて、メロの腕に自分のそれを絡ませた。そしてそうした上で、メイクを終えてどこか所在なげにぼんやりしているヴェロ二カに声をかける。
「ハイ!」
「……ハイ」と、一応返事を返すものの、ヴェロ二カはどこかそわそわしており、これから大事な仕事が控えているにも関わらず、心ここにあらずといった顔をしていた。
 先ほどからメロが観察していて思うに――彼女のその症状は明らかにヤク切れの人間のそれであった。濃い化粧が紙のように白い本当の顔色を隠しているが、メロはヴェロ二カが先ほどから<誰か>を探しているらしいと見てとって、ずっと監視していたのである。
 つまり、彼女は今すぐにでもドラッグをくれそうな人間を目で探してばかりいたということであり、その相手が誰かというのをメロは知りたいように思っていた。
「彼、メロっていうんだけど、最近この業界に入ったばかりなの。男性モデル専門のエージェシー<アレクシス>の新人モデルでね、今日はちょっとした勉強がてらここへ来たってわけなの」
「ああ、じゃあ彼もゲイなのね」
 イケメン男を紹介されて、ヴェロ二カは一瞬目の奥に光が宿ったものの、またそれはすぐにヤク切れのジャンキーのそれに戻ってしまった。
「まったく、最近のいい男っていうのはなんでこう結婚してるかゲイのどっちかなのかしらね。ところでポールは元気なの?」
「さあね。元気なんじゃないの?」と、その話題についてはごまかし、ケイトはメロの腕を「ほら」というように何度か突っついている。
「ところで、その……俺はモデルのアマンダのファンだったんだが、ミス=ノリス、あんたは彼女と親しかったんだろ?生前の彼女について何か話を聞かせてもらえたらと思ったんだが、どうだろうな?」
「もちろんいいわよ」と、マルボロのライトに火を点けながら、ヴェロ二カはわずかに掠れた魅力的な声で応じてくれた。口紅なら、出番の前にまたメイクアップアーティストに直させればいい。
「だけどあんたも酔狂な男ね。今はジム・モリスンやジャニス・ジョプリンが生きていたような時代じゃないから――ドラッグのやりすぎなんかで死んでも、伝説にもなりゃしないわ。実際、アマンダが死んだあと、少しの間マスコミなんかが騒いで、今じゃあすっかり『アマンダ・ソアレス?ああ、そういや昔そんなモデルもいったっけ。ドラッグのやりすぎで死んだらしいけど、いい女だったのに可哀想になあ』くらいのものでしょ。あたしは、アマンダのあの誰にも物怖じしない性格が好きだったのよ。テレビのショーの出番前に計画的な受け狙いをふたりでよく練ったりしたものだったわ。一番よく知られてるのは、あたしがアマンダに「誰とでも寝る女!」ってみんなの前で叫んだことかしらね。楽しかったわ。みんなが唖然とした顔をしてたけど、楽屋に戻ったらあたしたち、「あの時の連中の顔見た!?」って言って、笑い転げたものよ」
 ヴェロ二カが(あの頃は楽しかった)というような、昔を懐かしむ顔をするのを見て、メロはともかくとしてもケイトは、彼女のモデルとしての寿命が尽きかけているのを見てとった。アマンダ・ソアレスのモデルとしての一番の魅力はおそらく、<今この瞬間を楽しむ!>という、彼女の体内から溢れんばかりのオーラだっただろうが、今のヴェロ二カにはまるでそれが感じとれなかったからだ。
「あたしとアマンダはドラッグのパーティで知りあって、そのあと意気投合したのよね。まあ、友達になれたのは、あたしがスーパーモデルになれるようなタイプのモデルじゃなくて、野心も大してなかったからかもしれない。アマンダはモデル仲間には嫌われてたかもしれないけど、そのことをまるで気にしてなかった。あたしはそういう彼女のことが好きだったの……ちょっと失礼」
 ヴェロ二カは煙草を灰皿に押しつけて消すと、慌てたように立ち上がり、一目散に駆けていった。シャンパン色のドレスの裾を持ち上げつつ、あんな小さなミュールで走って、よく転ばないものだとメロは感心してしまうが、そこはプロ根性といったところだったかもしれない。
「今彼女が話してるのは、スーパーモデルのシャナイア・ローレンだろう?彼女もドラッグをやるのか?」
「さあ……はっきりしたことまではあたしにもわからないけど、たぶんそうでしょうね。メロ、あんたヴェロ二カの出番になったらきっとびっくりするわよ――今ローレンからドラッグをもらってハイになったら、猫が豹になったってくらい彼女は変わるから。でもこんなの、この業界じゃ掃いて捨てるくらいよくある話よ」
「そうなのか」
(もしかしておまえも……)というような目で見られた気がして、ケイトは慌てて首を振った。
「言っておくけど、あたしはやってないわよ。あ、えーと、そりゃ経験くらいはあるけど、そんな深刻なのじゃないの。だってあたしがたとえば東京のショーで麻薬持ってて捕まったりしてごらんなさいよ。それがすぐ<ミュア・ミュア>の株式に影響しちゃうのよ。あたしだって流石にそこまでは馬鹿じゃないってことよ」
「本当だろうな?」
 マンハッタンのクラブで遊びまわっていたケイトを知っているメロとしては、若干疑いの目で彼女のことを見ざるをえない。けれどとりあえず一旦はケイトの言葉を信じることにした。それよりも今は、シャナイア・ローレンのことだ。
「あ、そういえばローレンの噂で一番有名なのは、彼女は両刀使いだっていうことかしらね」
 おそらく大抵の人の頭には、今のケイトの一言で――金髪の美人モデル→両刀使い→ドラッグ→乱れに乱れたセックスライフ……そうした図式がすぐにパッと思い浮かんだに違いない。だが、変なところで堅いところのあるメロは、金髪美女の3Pシーンなどというものを想像することさえなく、ただアマンダ・ソアレスの件についてのみ、自身の推理を脳内で展開するだけである。
(もし仮に、“いつでもドラッグを持ってる”ということで、ローレンが業界内の有名人だとしたら……その彼女は一体どこでそれを手に入れるんだ?麻薬のディーラーっていうのはみんな、マフィアと繋がってるもんだが、彼女がそちらと太いパイプを持っていたとして――ローレン自身が例のフォトグラファーとのことでアマンダに恨みを抱き、組織の殺し屋にオーバードーズに見せかけて殺させたっていうのは、まあ可能性としてゼロではないだろう)
 実際、ローレンの控え室からヴェロ二カが出てきた時、彼女のその豹変ぶりにメロは驚いた。先ほどとはまるで別人の顔つきをしており、動作もキビキビしている上、まるで無駄がないとでもいうのか――彼女は<ミュア・ミュア>のメッセンジャースタッフが通路を塞いでいると感じたらしく、「どいてちょうだい!邪魔よ!」と一喝するなり、メロとケイトの姿も眼中にない様子で颯爽と歩いていった……そして自分のメイクを担当している女性を呼びつけるなり、ここがなってないとか口紅を塗り直してちょうだいと一方的に命令し、最後にはトップモデルとしての強いオーラを放ちながらランウェイを闊歩していたのである。
(ドラッグの力ってのは大したもんだな)と、メロは呆れると同時に思わず感心してしまったが、彼がローレンの控え室で彼女にドラッグの入手ルートについて探りを入れようかと考えた時――パッとケイトがメロの腕に絡ませた手をほどいてきた。
「どうやら緊急事態が発生したみたいね!あたし、ちょっと仕事してくるわ!」
 言うなり、ケイトはぴゅーっと風のように走っていき、先ほど特大のデブでも見るような目でヴェロ二カに睨まれた<ミュア・ミュア>の若い女性スタッフを救いに走っていった。彼女――憧れのミュア・ミュアに入社して一年目――は、舞台の客席でサラが言った言葉をファッション・スタッフに伝えるというメッセンジャー業務を担当しているのだが、汗だくになって客席と舞台裏とを往復しているにも関わらず、いつまでたってもサラのOKが出ずに今やほとんど泣きそうになっていた。
「しっかりしなさいよ、シンシア!あたしがロミーと彼女のヘアメイク担当者にうまくとりなしてあげるから!」
 そんなケイトの様子を見てメロは、(ケイトも大人になったもんだな)と、強く感じる。自分が彼女と出会ったばかりの頃は、遺産目当てに実の伯父が母親である妹のことを殺したショックもあったのだろう――精神的に不安定で、何かあったらすぐにも折れてしまいそうな雰囲気を漂わせていた。だが今や押しも押されもせぬスーパー美少女セレブリティとしてファッション業界の天使のように扱われているのだ。メロは自分が彼女の手を放す時期を見誤っていなければいいがと軽く心残りだったが、結局あれで良かったのだろうと今さらながらに安堵する。
「ねえ、あなた名前なんていうの?」
 メロがまたチョコレートを齧るべく、銀紙をめくっていると、赤い髪をした背の高いモデルが、高いヒールの靴をはいて彼の隣に立っていた。
「メロだ」
 短くそう答えると、パキッとメロは板チョコを食べる。
「さっきも見てて思ったんだけど」ドイツ人のトップモデル、リサ・クリスチャンセンは両方の手を細いウエストにあてながら言った。「あんた、あたしたちに喧嘩売ってるわけ?今日のショーのために、もう何か月もチョコレートなんて食べてないモデルがこんだけうようよしてるってのに――まったく、いい度胸してるわよ」
「ああ、そうか。悪かったな」
 メロは正直にあやまり、確かに彼女の言うとおりかもしれないと思い、すぐに食べかけのチョコレートをポケットに隠すことにした。
「あら、存外素直じゃないの。なんだったら、あたしの控え室に来てチョコ齧ってれば?そこなら誰にもうるさく言われないだろうし」
「いいのか?」
「もち。あんたみたいないい男だったら大歓迎よ」
 濃いマスカラに縁どられた目で、リサはウィンクをして寄こす。果たして、アマンダは彼女が言っていたとおり本当に誰とでも寝て仕事をとるような女なのだろうか?
(とてもそんなふうには見えないが……)
 そう感じつつメロは、彼女にもまたアマンダのことをさりげなく聞ければと思い、すぐにリサの後について歩いていった。彼女は花模様を散らしたシルクのチャイナ風ドレスを着ており、スリットが太腿深くにまで食いこんでいるといったようなスタイルだった。
 手にはまるで西大后が使っていたような、孔雀の派手なセンスを持っており、それで優雅に自分の顔を煽ぎながら歩いている。
「すみません、ミス・クリスチャンセン。できれば相部屋のほう、お願いできませんでしょうか?」
「えっ、何よそれ。そんなの絶対嫌よ。誰か他を当たってちょうだい」
 にべもなく断れ、シンシアとはまた別のメッセンジャー業務を担当している<ミュア・ミュア>のスタッフは――彼女もまた途方に暮れたような、半ば泣きたいような顔つきをしている――とぼとぼと通路を去っていこうとした。
 と、そこへ……。
「わたしでよければ、お力になれるかもしれないわ」
 その優雅な声の響きに、メロは思わず振り返ってしまった。何故といえば、彼女の声はどこか、ラケルのそれに似ていたせいだった。
「やあだ、やだ。いい子ブリッコしちゃって。あれだからあたし、マリアって嫌いなのよ。だけど結局男ってみんな、ああいうのがいいのよね……まさかとは思うけど、メロ、あんたもその口なの?」
「いや、そんなわけじゃない」
 だが一瞬、自分らしくもなくドキリとしたのは本当のことだったと、メロにしても告白しておかなければならなかっただろう。といっても彼の場合は、ここにいるはずのない人間の声が聞こえたそのせいで、一瞬ドキッとしたということではあったのだが。
「あんた、またすぐに着替えてメイクを変えて出るんだろ?本当にここに俺がいていいのか?」
「んー、なんかもうべっつにーっていう感じよ。今回は控え室がきちんとした形で当たったけど、もう何がなんだかしっちゃかめっちゃかな状態で出を待つなんてこと、日常茶飯事だからね。サラのババアが睫毛とアイラインの色を変えろって言ったけど、あたしはその程度の注意ですんでまあ良かったわ。さっきのミュアのスタッフ、「こんだけうるさく注文つけるんなら、専用の控え室を与えてちょうだい!」ってロミーにわめかれたんでしょ。マリアが部屋を譲ってくれるなんて、あの子にとってマリアはまさに聖女さまさまってところでしょうね。他のモデルには絶対にありえない謙虚な申し出よ」
「で、あんたはそういういい子ブリッコなマリアが嫌いってわけだ」
 メロが壁によりかかってチョコレートを食べている目の前で、リサはチャイナ・ドレスを脱ぎ始める。そして下着姿のまま、次の洋服を着るでもなく、ドレッサーの前で足を組み、早速とばかり煙草に火を点けた。
「んー、まあ嫌いって言えるほど、マリアのことを色々知ってるわけじゃないけどね。まあ、今の旬な娘たちっていう感じで、何回か撮影で一緒になったことがあるの。そしたらさ、男どもがなんともウザいのよ。今のあたしみたいに色気も何もなく大股開いて煙草を吸うような女は女じゃないっていうか、マリアこそ女の中の女だっていうの?スタッフの男連中ときたら、そういう感じになるのよ、彼女と一緒にいると。だからあたし、ロミーやヴェロ二カとは普段仲がいいわけでもなんでもないけど、その時ばかりは一致団結してマリアに対して「うえ〜っ!!」って吐く真似してやったわよ。もちろん、彼女には見えないところでね」
「なるほどな。ところであんた、アマンダ・ソアレスのことは今も嫌いなのか?」
 リサは赤い髪のヘアピースをとると、ドレッサーの上に放り投げて、べーっと舌を出している。
「当然、決まってるでしょ。あんな性悪女、見たこともないわ。ミラノのコレクションが始まる前夜、クラブにファッション関係者が一同に会するっていうのは誰もが知ってることよ。その場所で突然指つきつけられて、「誰とでも寝て仕事をとる女だ!」なんて言われたんだから。彼女が死んだって聞いた時も今も、正直なんとも思わないわね。むしろ亡霊になってこの場所に現れでもしたら、もう一度殺してやりたいくらいよ」
「そうか。じゃああんたには、アマンダにそんなことを指摘されるいわれはまったくなかった――にも関わらず、酔っ払った彼女に失礼な発言をされて今も腹を立てているっていうことでいいんだな?」
「ねえ、あんた一体何者?レザーパンツにレザージャケットなんて着て、一見パンクロック風イケメン男ってとこだけど、誰の関係者なわけ?ケイトの新しい恋人か何か?」
「ああ、俺はラスのボディガードをしてて、警備上のことを色々見てまわってたっていう、それだけだ。ここだけの話だが、アマンダは自殺じゃなく、他殺だった可能性があって、同じようにラスも命を狙われないとも限らない……そんなわけで、ミッシェルか俺のどちらかが、常時彼女からは目を離さないようにしてるんだ」
「ふうーん」
 リサの鏡に映った顔つきには、どこか納得していないものが浮かんでいたが、それでも彼女はそれ以上何かを深く追求してくることはなかった。高いヒールの靴を脱ぎ捨て、革紐の、中央にダイヤのついたサンダルに掃きかえる。もう五分もすれば、リサ専任のスタイリストがやってきて、あれやこれやと彼女のことをバービー人形のように扱うだろう。
「まあ、今のこの時間は俺のちょっとしたチョコを食べるための休憩時間ってとこだ。邪魔して悪かったな。色々話を聞けてよかったし、参考になった。あんたにはわからないだろうが、とりあえず礼を言っとく」
 メロはリサのことをとりあえず<白>だと見てとった。シャナイア・ローレンのように確率は低いがゼロではない可能性といったようなものは、彼女からは一切感じとれなかったからだ。
 メロの目にはリサ・クリスチャンセンというモデルは、若くて溌剌としていて、性格も素直な上、たまたま天が美貌までも授けた――そういうタイプのモデルであるように見えていた。つまり、アマンダのようにあれこれマスコミを騒がせるためのお膳立てをしたり、そのために計画的な行動を起こすようなタイプではまるでありえないということだった。
「それと、最後にもうひとつだけ聞いておきたいんだが」と、メロはドアノブに手をかけたところで振り返った。「あんた、酔っていたとはいえ、アマンダにあんなことを言われるような恨みを彼女に買っていた覚えはあるか?たとえば、アマンダと新進気鋭のフォトグラファーを取りあっていたとか、そんなようなことだが」
「まるで身覚えがないわね」リサはドレッサーの上に座ったまま、サンダルをぷらぷらさせて言った。「だってあたし、あれが初めてのコレクションデビューだったんだもの。その前まではほとんど無名だったって言ってもいいくらいよ。あんな屈辱的な事件のせいでまわりの人に名前を覚えられるなんて、いい迷惑以外の何ものでもないわよ」
「そうか……わかった」
 メロが今度こそ本当に部屋から出ていくのを見て、リサは慌ててドレッサーの上から飛び下りていた。本当は、自分のこの下着姿にムラムラきた彼に押し倒されるというのが理想ではあったけれど――この際、もう仕方がない。
「ねえ、メロ。なんだかあたし、あんたのこと気に入ったわ」
 リサはメロの革のジャケットを引っ張って振り返らせると、彼に深く口接けた。そして口移しにチョコレートを食べ、「ごちそうさま」と最後に婉然と笑って言ったのである。ぺろり、と赤い舌で唇の端をなめながら。
(やれやれ。女っていうのはよくわからないな)
 メロは口許をぬぐうと、リサの「誰とでも寝る女」疑惑について、自分の確信が揺らぐのを感じたものの、まあ、自分が彼女に好感を抱いたのと同じくらいの気持ちをリサのほうでも感じたのかもしれないと判断することにした。
(さてと、次はマリア・アクアクランに探りを入れるとするか)
 ――実をいうと、メロが何者かというのは、ラスのマネージャーのミッシェルにはすでにバレていた。いや、彼がF1ドライバーの卵であるとか、実は裏稼業として探偵をしているといったことがバレていたわけではない。ただ、メロのことを不審に感じたミッシェルが何度となくしつこくディエラに電話をかけ、「あの男は一体なんなんだ」と彼女に追及したせいで、偏頭痛持ちのディエラはイライラするあまり、口止めされていることをついポロリと彼に洩らしてしまったのである。
 すなわち、メロが実はパリ警視庁のまわし者で、アマンダの死についてラスのボディガードをする傍ら調べてまわっている、ということを……もちろんこうしたお膳立てをしたのはすべて、この件をメロに依頼した<L>である。
「なんでも、アマンダの死っていうのは、証拠こそないものの、明らかにその筋のプロの仕業らしいのよ。で、このままいったらラスももしかしたら彼女の二の舞になる可能性があるかもしれないなんて言うんだもの。警察の人間がボディガードについてくれるくらい心強いことはないし、それでつい捜査に協力しますって言っちゃったのよ。でもまさか、あんな可愛いボーイがやってくるだなんて思わないじゃない」
 とはいえ、腕のほうはプロ中のプロということで、射撃の腕は百発百中、柔道は黒帯の腕前……といったような話をフィリップ・ノイマン警視正から聞かされたアマンダは、ミッシェルとは違いメロのことを<どこかうさんくさい>などというようには疑ってもみなかった。
 なんにしてもそんなわけで、控え室にラスがミッシェルといればとりあえず安全だろうとメロは考え、アマンダと繋がりのあるモデルたちにひとりずつ接触していったわけだが――意外にもラスの部屋に戻った時、マリア・アクアクランがその場所にいたことで、面倒なお膳立てをする手間が省けたように感じた。
 ようするに、モデルのロミー・ヒューストンがヒステリーを起こしたそのせいで、マリアが個室を譲り、さらにそのマリアと相部屋になってもいいと、ラスがあの気の毒な<ミュア・ミュア>のやつれたメッセンジャーに話をしたというわけだった。
「メロ、口紅がついてるわよ」
 思わずとっさに服の袖で口許を拭ってしまい、メロは(しまった)と思った。だが、鏡を見ても確かにまだ口紅がついており、しかもなかなか落ちなかった。
 そのことを指摘したラスは、どこかつーん!とした顔をしていたし、ミッシェルは事の成りゆきをどこか面白そうな顔をして見守っている……マリアは出が近いので、ヘアアーティストとメイクアーティストのふたりがかりで、最後の総仕上げをしてもらっているというその真っ最中だった。
「やっだあ〜!!メロったらもしかして、女の子を食べてきちゃったんじゃないでしょうね!?」
 ただひとりエミリアンが場の空気を読むでもなく、メロのことを小突いてくる。ヴォーグのスティーブやシドニーもそうだったが、オカマというのはどうしてこう国境を越えて、似たような人種が多いのだろうとメロは不思議に思う。
「いや、これは単に無理矢理……」と、真剣に答えかけて、メロは眉間に皺を寄せた。ミッシェルがあからさまにニヤニヤした顔をしているのが気に入らなかったそのせいだった。
「そんなことより、ラス、おまえのほうはどうなんだ?順調にいってるのか?なんでもあのサラ・デイヴィスっていう銀髪のババアはなかなか小うるさいっていう話だからな。ラスももしかして何か文句を言われたりしたのか?」
「そんなことって何よ!!あたしがランウェイを歩いてる間、どっかの誰かとキスしてたあんたにとやこう言われる筋合いはないわね!!あんたなんかこんなところにいないで、リサ・クリスチャンセンの控え室にいたらいいじゃないの!!」
 ラスが感情を爆発させてそう怒鳴り、すぐそばにあった化粧道具を次から次へとメロにぶつけてくる――流石にこうなってくると、ミッシェルにしてもただニヤニヤ笑いを続けるわけにもいかなかった。
「おい、ラス。よせ……っ!!」
 シャネルの口紅やディオールの頬紅、アニエス.bのマニキュアのボトルやボビー・ブラウンのフェイスパウダーなど――ラスは手に持ったものを後先考えずにメロに投げつけている。
 その様子を見てミッシェルが止めようとするも、「離してったら!!」と言った時のラスの馬鹿力ときたら、ミッシェルが思わず手のひらに強い熱を感じたほどだった。そう、ラスは感情的になりすぎるあまり、自分の内側に眠る力である超能力を使いそうになっていたのである。
 当然、マリア・アクアクランのヘア担当とメイク担当のアーティストは、呆然として事の成りゆきを見守っていた。もちろん、ラスは人前で発火能力を使うほど愚かではなかったが、それでも自分が超能力を思わず使いかけたことにハッと我に返り、ようやく冷静になることが出来たというのが本当のところだった。
「ごめんなさい、ミッシェル。あたし……」
 一瞬、尋常でないほどの強い熱を手のひらや腕に感じたミッシェルは、まるでその手が自分のものではないかのようにじっと見下ろしている。
「いや、俺のことは心配しないでいい。だが、明日はくれぐれもこんな騒ぎがないようにしてくれよ。リハーサルにはサラ・デイヴィスの意向でカメラのクルーを入れないことになってるが、明日はTV局の連中がこのクリスマスショーの舞台裏を撮影しにくるからね……明日今のようなことが起こってゴシップ誌のネタになるよりは、今日のうちに今みたいなことが起きてよかったよ」
 そう言ってミッシェルが、どこか驚いた顔をしているマリア担当のスタイリストふたりを見返すと、彼らはほとんど同時に「まったくそのとおり」といったように肩を竦めていた。ファッション業界というのは、広いようでいて意外に狭い世界である。ミッシェルはベテランの彼らと長いつきあいがあるので、今あったことが外に洩れることはないだろうとよくわかっていた。
「さあ、そんな機嫌の悪い顔をするものじゃないよ。もっともラスは怒った顔も可愛いけどね……メロ、悪いが少し外に出ていてくれないか。今は君がこの場にいると彼女がいい仕事をするのに邪魔になる」
「わかった」
 あっさりと了承し、部屋から出ていこうとするメロのことを、ラスは最後まで目で追っていた。その瞳にはすでに怒りの色はなく、後悔だけがあるというのは、まわりの誰が見ても明らかなことだった。
(ふう〜ん。あのボーイが言ってみればラスの弁慶の泣きどころってわけね) 
 ヘア&メイクアーティストのエミリアンは、今あったことでむしろ、ラスに対してさらに好感を持っていたといっていい。何故といえば、ラスは確かに性格もいい上に顔も綺麗なわけだが――どこか人間味という点で面白みが足りないように、エミリアンは感じていたからだ。なんでもスタッフの言うなりになるバービー人形には、彼は大して魅力を感じない。だが、今ラスが人目も顧みずに激しい感情を爆発させたのを見て、彼女はこれからもいい仕事をし続けるだろうという予感が、エミリアンはしていたのである。
(本当の芸術家に必要なのは、ああいう情熱よ)
 そう思いながらエミリアンは、ラスの化粧をもう一度整え、すぐそばにいるマリア・アクアクランに負けないくらい綺麗で優雅な顔に彼女を仕上げると、ゴールドの短いパンツにブルーのジャケット、それにカウボーイ風の帽子を被ったラスのことをランウェイへ見送った。この格好でもし普通に彼女が街を歩いたとすれば――少し頭の具合のほうを疑われたに違いないが、“ランウェイ”という特殊な空間においては、ラスはこの上もなく輝いて見えた。
 そしてラスがランウェイのトップでポーズを決めた時、客席の隅のほうにメロの姿があるのが見えた。
(そうよ。あたしはあんたが好き!!嫉妬でヒステリーを起こしてしまうくらいね!!)
 言葉ではそうは言わず、ラスはくるりと踵を返して、どこか気どったモデル歩きで去っていくのみだったが――この日、サラ・デイヴィスからラスに対してはなんの注文もつかなかった。そしてラスの他には、サラからなんの文句も言われなかったのはシャナイア・ローレンとマリア・アクアクランのふたりがいるのみだったのである。



 >>続く……。




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