Sweet&Sweet&Sweetest(16)~Lの徒然日記☆~(3)

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 その後二日ほどしてわたしは、<竜崎家>のほうに身を寄せることにし――セキュリティ体制も万全なものにして、ひとり部屋に篭もって仕事を続けることにしました。何故わたしがそうしたかについては、ふたつほど理由があります。まず第一に、二度と強盗が押し入るなどということが起きないよう、不測の事態に備えるこため、そして第二に、いつまでもわたしも日本にだけいるというわけにもいかないので――さっさとこの『明るい家族計画』とやらにケリをつける必要がある、ということでした。
 正直、わたしが単身引っ越してきた時のラケルさんの顔つきは、あまり芳しいものではありませんでした。まあ、無理もないというか、その気持ちもわからないではありません。彼女は自分のことを下働きのメイドのようなもの、と言っていましたが、わたしがこの家に越してくるということは、今以上にメイドとしての仕事が増えるということを意味していましたから。
 ですがまあ、わたしとしては、こうした生活はそう長くは続かないだろうことを十分予測していましたので――それまでは彼女に我慢してもらうしかないだろうと、そんなふうに考えていたんです。
 ところが……。
 ラケルさんがこの家に来て、とうとう三度目に倒れるという事態が起きてしまいました。それも原因は、どうやらわたしのせいらしいんです。
 まあ、そのことについては一旦置いておくにしても――メロとニアが交わしていた会話から、わたしはあるひとつの重要な事実を掴みました。それはメロがラケルさんが眠っている間にキスしていたことと関係があるのですが……とにかくわたしは彼らふたりの会話を聞き、これ以上こうした疑似家族の関係を続けるのは健全でないという結論に達したわけです。
 いえ、この時点では、メロがラケルさんにキスしたことについて、わたしは特にこれといった感情は抱いていませんでした。この時わたしが思ったのはようするにつまり――実際に血の繋がっていない若い女性がわたしを含めた年ごろの男三人と暮らすのは環境的にあまりよくないことらしいということなんです。ロジャーは精神科医として、果たしてそのへんのことをどう考えていたのかわかりませんが、ギリシャ悲劇に『オイディプス』という話があるでしょう?自分の実の父親をそれと知らずに殺し、その母を自分の妻としたという男の話です。そこから転じて、フロイトはエディプス・コンプレックスという説を提唱したわけですが――このままいくと、メロとニアは(血は繋がっていないとはいえ)母親的な女性を奪いあうことになり、さらに父親(<L>というわたし)を殺しかねないということなんです。
 もちろん、メロやニアには、わたしに対して尊敬する気持ちこそあれ、殺意などはまるでないでしょう。ですが、彼らは<L>の地位とラケルさんはセットだと言っていた……ということは、彼らがただ単にLの後継者争いをする以上に、話がややこしくなったということです。つまり、ロジャーとワタリがこんな『明るい家族計画』なんていうものを考えつきさえしなければ――「誰がLの後を継ぐか?」というだけの、極めてシンプルな問題だったにも関わらず、これでもっと問題が厄介になったということをわたしは言いたいんです。
 もしこれで仮に、メロかニアのいずれかが、「Lの地位なんかより、僕にはお母さんが大切なんだ!」とでも言っていたとすれば――あまりにありえない、くさい展開ではありますが――この『明るい家族計画』とやらにも意味はあったかもしれません。でも、こうなってしまった以上は、一日も早く彼らにこのつまらないゲームをやめさせて、イギリスに帰ってもらうしかない、というのがわたしの結論でした。何故なら、メロやニアはともかくとして、ラケルさんが傷つくことにまでは、わたしは責任を持てませんでしたから……。

 話は若干前後しますが、わたしは自分が竜崎家に越してきてから、ラケル=ラベットというワイミーズハウスの若い教師がどういう女性なのかを、よく知る機会を得たといってもいいと思います。
 彼女は一日のほとんどを料理や裁縫や洗濯、掃除といった家事に費やしていましたが――その合間合間の時間に読書をしたり、また院へ戻った時のために子供たちの授業のプログラムを組んでいたりしました。
 まあ、わたしはほとんど仕事部屋にいて、例のメキシコの麻薬カルテルの本拠を潰すための指揮をとったり、ユーロ・ディズニーに爆弾を仕掛けたというふざけたテロ組織の組員を追っていたりしたわけですが……そういったような事情により、最初のうちはほとんど家庭(?)を顧みるような余裕などまるでないながらも、それでいながらふと、ラケルさんやメロやニアがどんなふうに過ごしているのか、また彼らが普段どういう会話を交わしているのかといったようなことを知る機会は結構あったと思います。
 わたしが糖分に飢えてダイニング・キッチンのほうへいくと、大抵はテーブルの上や冷蔵庫の中にスイーツの用意がしてあり、これはたまたま偶然でしょうが、彼女は昼寝をしていることが多かったんですよ。そして、その傍らにはラケルさんが読んでいる途中の本が置いてあるか、あるいは子供向けの勉強のテキスト本などが置いてありました。まあ、子供向けなんていっても――ワイミーズハウスの子供たちは一般でいう<普通の子供>ではありませんから、いわゆる英才教育用のそれ、ということなんですが、彼女の手書きのノートを読んでみると、普段ラケルさんがどういう教育方法によって子供たちを教えているのかがわかって、とても興味深かったことを今もよく覚えています。
 つまり、普通の学校では黒板に先生が字を書いて生徒たちがそれをノートに書き写す、という手法が一般的なのかもしれませんが、ワイミーズハウスの子供たちは視覚や聴覚が幼い頃から極めて優れているので――実質、ノートをとらなくても教師の言ったことはすべて授業が終わるのと同時に丸暗記していることが多いのです。
 では、院ではどういう教育方法をとっているかというと、子供のオリジナリティを大切にして、<自分で自分なりの教科書>を作らせるという独創的な手法をとっています。まあここで問われるのは言うまでもなく、教師の資質ということになるわけですが――ラケルさん自身がどう子供を教え導くかということを書き記しているノートを見ると、彼女はどうやらロシア語・フランス語・イタリア語・日本語・英語という五カ国語を駆使して、それぞれの国固有の文化や似たような言い回し・諺・格言などを調べてくるよう、これから宿題をだす予定のようですね……それに自分で絵を描いてわかりやすくしたり、本の写真をコピーするなどして、自分なりの教科書作りをしましょう、なんていう言葉が横に書き記してあります。
 実はこのノートというのは、子供にとっては院を卒業したあとも、自分にとって世界にひとつだけの教科書として、ずっと取っておけるものなんです……わたしはラケルさんが例として、いくつか自分で世界の歴史などを整理し、絵や写真などを脇に載せているノートを見ると、彼女がウィンチェスターの孤児院の子供たちをどんなふうに教えているか、その授業風景が浮かんでくるような気がして、微笑ましい気持ちにさえなりました。
 また、別の日にはこんなこともありました――彼女はどうやら聖書を読んでいたらしく、その上に顔を伏せるようにして昼寝をしていました。まあ、ラケルさんはどうも、わたしが彼女の寝ている間にばかりスイーツをキッチンから持っていくので、あまりわたしが自分を好いていないようだと感じている節さえあったようですが、実際にはまったくそんなことはありません。また、ついうっかり昼寝しているところばかり見られて、仕事をさぼっているように思われはしないかと、多少罰の悪い思いも感じていたようですが――彼女がどのくらいよくやっているかということは、わたし自身よくわかっていることでしたから。
 その時もわたしは、ラケルさんが起きないようにこっそり冷蔵庫を開け、その中で冷やされているババロアやプリンやゼリーなどを取っていました。そして足音を忍ばせて彼女の背後にまわり、スプーンを持っていこうとしたんです。そうしたら……。

<揺り起こしたり、かき立てたりしないでください。
 愛が目ざめたいと思うときまでは>

 何気なく見つめた視線の先に、そういう聖句がわたしの目の中に飛びこんできました。ちなみに旧約聖書のソロモンの雅歌、第8章4節です。
 わたしは百科事典を丸暗記するのと同じく、聖書というものもほとんどすべて暗記していましたから――ラケルさんが何故そのページを開いていたのかと、少し気になりました。それで思わず、それに続く言葉をいくつか目で追ってしまったというわけです。

<わたしはりんごの木の下で
 あなたの目をさまさせた。
 そこはあなたの母があなたのために
 産みの苦しみをしたところ。
 そこはあなたを産んだ者が
 産みの苦しみをしたところ。

 わたしを封印のようにあなたの心臓の上に、
 封印のようにあなたの腕につけてください。
 愛は死のように強く、
 ねたみはよみのように激しいからです。
 その炎は火の炎、すさまじい炎です。
 大水もその愛を消すことができません。
 洪水も押し流すことができません。
 もし、人が愛を得ようとして、
 自分の財産をことごとく与えても、
 ただのさげすみしか得られません>
(旧約聖書、ソロモンの雅歌、第8章5~7節)

 わたしはこの時ふと――(これはどういうことだろう?)と思いました。
もちろん、たまたま何かの偶然でラケルさんは聖書のこの箇所を読んでいただけだったかもしれません。それでも何か、この時わたしの心に暗示的な何かが陰を落としたような気がしたんです。
 そしてわたしは二階から、メロかニアのどちらかが下りてくる気配を感じて――足音から察するに、おそらくは間違いなくメロ――すぐにキッチンの棚からスプーンをとると、自分の仕事部屋へ逃げこみました。
 そのあと、なんとなくドア越しにラケルさんとメロの会話を聞いていると、どうやらメロはわたしが前に彼女の鼻をつまんだことがあるのと同様に、洗濯物バサミでラケルさんの鼻をつまんで無理に彼女を起こしたようでした。
「もう、メロちゃんってば、何するの!」
「ババア、寝てばっかりいないで、そろそろ外に干した洗濯物、とりこんだほうがいいんじゃねえのか?だんだん曇ってきたし、天気予報でも夕方から雨になるって言ってたからな」
 ――これは、メロなりのラケルさんに対する優しさなのだろうと、わたしはそう感じました。もちろん、もし<本当に優しい>のなら、外の物干し台にかかっている洗濯物を、全部とりこんであげるのが本当かもしれません……ですがまあ、メロの場合ニアの着たものをなんで俺がとりこまなきゃなんねーんだ!という気持ちが邪魔をするのでしょう。そこで、彼の最大限の譲歩として、雨が降りだす前にラケルさんにそのことを教えてあげたというわけです。
 わたしはメロとニアのことを、小さな頃からよく知っていますから――彼らが何故ラケルさんに対して心を開いたのかも、よくわかるような気がしていました。ニアなどは先日、ラケルさんが買物へいっていない時に、例によってキッチンにスイーツを取りに入ったわたしに、こんなことを言っていましたっけ。
「Lは、アレックス=アンダーウッドという、ワイミーズハウスの教師を知っていますか?」
「いえ、知りませんね」と、率直にわたしは答えました。ワイミーズハウスには何人か顔を知っている教師が確かにいましたが、その全員の顔と名前となると、実際よくわかりませんでしたから。
「アンダーウッド先生はどうやら、ラケルさんにプロポーズしたことがあるらしいです……でも彼女、それを断ったそうですよ」
「……………」
 ニアは暇つぶしにか、プラモデルをキッチンのテーブルの上で作っていたのですが――彼の言いたいことが、わたしにはよくわかりませんでした。いえ、そうではなく「そのこととわたしに一体なんの関係があるんでしょう?」などと、とぼけて聞き返さないくらいには、ニアの言いたいことがわたしにもわかっていたかもしれません。
 わたしはその時、それ以上何を言うでもなく、また自室の仕事部屋へ篭もったわけですが――ブルーベリーパイを頬張りながら、ちょっとの間、ニアの言っていたことについて考えていました。ようするに彼は遠まわしに、ラケルさんを他の男にやっていいのかと、わたしに言いたかったのかもれません……いえ、彼の目から見てもメロの目から見ても、わたしと彼女との間に恋愛的な兆候などは皆無でした。けれど、ニアにはわかっているんです。もし<今>わたしが何もしなければ、ラケルさんは自動的に数年後、アンダーウッド先生ではないにしても誰か他の男のものになってしまうかもしれないということを……。
 この時もまた、わたしは<自分には関係ない>こととして、再び捜査の続きにとりかかりました。ですが、ラケルさんが開いていた聖書の言葉を見た瞬間に――何かが、わたしの頭の中で繋がったことも確かだったんです。
 ラケルさんという人は、曲がりなりにもイギリスの名門、オックスフォード大学をでている人なわけですから、そういう意味合いにおいて、決して「馬鹿」というわけではありません。それでも性格的なある一面において、おそろしく単細胞なところのある人で――言葉を変えれば極めて騙しやすい――わたしは確かに、彼女に対する第一印象として、それなりに相応しい誰かと数年後には結婚し、幸せな家庭をきっと築きあげるに違いないと感じました。でももし、ラケルさんのそうした純真さのようものが災いして、悪い男に引っ掛かったとしたら?そのくらいだったら、わたしが天然記念物を保護するように、彼女のことを守ってあげたほうがよくはないだろうか……
 わたしの脳裏にこんな考えが浮かんだのも、先日の強盗事件のことがあったからです。空巣田は、強盗目的で竜崎家に忍びこんだのであって、婦女暴行が第一の目的ではありませんでした。それでももし、メロがあの時偶然帰宅しなかったとしたら――当初の強盗目的が、騒がれたのでレイプして殺害するということに切り換わったという可能性も、まったくなかったとは言えません。
(わたしは、一体何を考えている……)
 つい三日ほど前、ラケルさんが湯上がりにバスタオルを巻きつけて自分の部屋に入っていったことを思いだして――わたしは思わず頭を振りました。そう、こんな仕事や捜査に邪魔になる要素の多い生活は、なるべく早く終わりにしなければならない……そのためにもわたしには、メロとニアが<本当は何を考えているか>を知る必要があったと、そういったわけなんです。そしてそのことをはっきりと掴んだ以上は――この疑似家族である竜崎家を解散し、彼らには一日も早くイギリスへ帰ってもらうつもりでいました。

「それで、その賭けっていうのは一体なんなんですか?」
わたしはメロとニアのふたりに並んで座ってもらうと、単刀直入にそう聞きました。ラケルさんは神経疲れが祟ってまたも倒れてしまい、この時はまだ自室で睡眠中だったんです。
「ババアの奴、晩飯作るのも忘れてまだ寝てんのか?仕様がねえな。あいつ一度倒れると昏々と眠り続けるからな」
 メロは冷蔵庫からチョコレートを一枚とりだすと、まるで夕食のかわりにするようにそれを食べています。わたしにも少し分けて欲しいと思い、手をさしだしましたが――彼はわたしの手をぱちりと叩いて、その要求を拒否してきました。
「大体、もとはといえばLが悪いんだぜ?こんな狭い家にあの女と俺とニアのことを放りこんだりするから……結局暇になっていつものように競争することになったんだよ。『Lを継ぐ者がラケルのことも手に入れる』、それが今俺がニアとしてる賭けの内容だ。もちろん冗談半分で、だけどな。あのババアもそこそこ顔立ちは整ってるから、そのうち本当に母親ってやつになるだろうし、何も問題はねえよ」
「それで……ようするに昼間彼女が寝ている間にキスしたのも、冗談半分だったと……」
 わたし自身としては、そのことについてそれほど深い拘りはありませんでした。第一、彼女にもまったく責任がないなどとは言えないのではないかという気もします。湯上がりに彼女がキッチンや居間のあたりをうろついているのを見たのは、わたしやメロやニアにとって一度や二度ではありませんでしたし――そうしたことについてラケルさんが何をどう考えているのか、<まったくわからない>ともわたしは思っていましたから。
 けれども、わたし自身に特別思うところはなかったにしても、ニアは多少別だったようで、彼のいつもの無表情な顔の仮面の下に、何か面白くないと思う感情があるらしいのを、わたしは漠然と感じていました(そしてその気持ちはおそらく、メロにも伝わっていたに違いありません)。
「べつに、そのことをラケルに言いつけようとは僕は思いませんけどね」ニアはパズルを組み立てながら、そう言いました。「自分が先に手をつけたから、Lの座が仮に僕のものになったとしてもラケルはメロのものというのでは困ると言っているだけです。一応誤解のないように言っておくと、べつに僕も彼女のことをどうこうしたいなんて考えているわけじゃありません。ただ余りにも暇なので、からかいやすい彼女を間に挟んでメロと遊んでいるという、それだけです」
(一応、それぞれ言い分は通っているが)とわたしは思いました。(だがどちらかというとわたしの耳には、単なる照れ隠しに言い訳をしているというように聞こえる……ここはひとつ、ラケルさんが起きてくる前に洗いざらい吐かせてやるか)
「じゃあもし仮に……ミス=ラベットの意志を100%無視して話を進めたとして、どちらか片方がLの座を継いだ場合――わたしの命令で、もうひとりにはラケルを与えると言ったとしたら、どうしますか?」
(そんな架空の話は無意味だ)というように、メロとニアは互いに顔を見合わせています。
「Lの座とラケルっていうのは絶対にセットだ。そうじゃないと意味がない。俺とニアの間でもそう意見が一致してる。第一、あのババアの意志を無視して一生ずっと俺の飯だけ作って生きろって言うわけにもいかない。だから話は最初に戻るんだよ」
「そういうことです。僕たちにとってLの座というのは絶対で、ラケルというのはそれに付随するオプションみたいなものです。ようするにオマケなんです」
「そうだよ。ガキの間でなんかのゲームが流行るみたいに、今俺とニアの間ではラケルが流行ってるっていう、ただそれだけの話……」
 それでも、ラケルさんの寝室のドアが開いて、彼女が居間に姿を見せた時には――メロは一瞬ぎくりとした様子でした。わたしたち三人は食堂で話をしていたので、おそらく今の会話を彼女に聞かれている心配はまずないでしょうが――それでもなんとなく気まずいものが、メロとしてもあったのかもしれません。
「すみません、わたし……自分でも知らない間に眠りこけてしまったみたいで……晩ごはんの仕度がすっかり遅くなってしまいました。もしかしてL、こういう時にかぎって待ってたりしました?」
「いえ、大丈夫です。それよりミス=ラベット、晩ごはんは店屋物でも構いませんので、少々お時間を割いていただけますか?竜崎家の、最初で最後の家族会議のために……」
 わたしはジーパンのポケットの中からマスクを一枚とりだすと、それに赤いマジックで×印を書き、ラケルさんにそれを手渡しました。
「家族会議、ですか?それにマスク……これは一体どうすれば?」
「まあとりあえず、いつものお母さん席に座って、そのマスクをして我々他の家族の話を聞いていてください。そのマスクは途中であなたが口をだしたくなるのを防止するためのものです。また、この話しあいが終われば、竜崎家はそのまま解散となりますので、どうかそのおつもりで聞いていてください」
 ラケルさんは(一体どういうこと?)というように、ふたりの義理の息子たちの顔を訝しげに眺めていましたが――メロとニアのふたりは、どこか決まり悪そうに彼女から視線を逸らすばかりでした。
「ふたりとも、これは次のLの座を継ぐのに、多少なりとも関係した質問になると思って、冗談半分にではなく真面目に答えてください。まずひとつ目、ラケル母さんの母親としての長所と短所を挙げてください。まずはメロからお願いします」
「……そうだな。長所はいつ俺が帰ってきても、何か飯作って食わしてくれること。短所のほうは俺をちゃんづけで呼ぶことだが、何回注意してもやめないから、もう諦めることにした」
「じゃあ、次はニアが答えてください」
 ラケルさんは、いかにも困惑しきり、といったような顔の表情をして、マスクの上のふたつの目を泳がせていました。こんなものは家族会議などではまったくなく、ただ表立って吊るし上げられてるだけじゃないかしら――仮に彼女がそう思っていたとしても、まあまったく不思議はなかったといっていいでしょう。
「そうですね……僕にとってラケルの長所は何よりその存在が邪魔にならないことです。空気のように大切だとでも言っておきましょうか。短所は僕が風呂に入っている時に「着替え置いておくわね」とか、「背中流してあげようか」って言ってくることです。はっきり言ってウザいです」
 そんなことまでしていたのかと思い、わたしは思わず笑いたくなるのをなんとかこらえました。ラケルさんはといえば、マスク越しからでもはっきりわかるくらい、顔を赤らめているようです。もう勘弁してほしい――彼女の照れくさそうな眼差しは、そう語っているように見えました。
「まあ、メロとニアがラケル母さんのことを好いているらしいことは大体わかりました。でも結局のところミス=ラベットは赤の他人ですし……何年かして結婚しようと思えばできないこともない。つまり、本当に彼女と家族になりたいと思ったら他に方法はないわけですが、どうしますか?」
「俺は……これから十年くらいして、もしババアがその時もひとりもので生活苦に喘いでたら、結婚してやってもいいかなと思うよ。でもまあ、ひとりかふたりくらいちょうどいいのが現れて、そいつと結婚するんだろうな。正直そんな奴はブッ殺してやりたいが、まあ結局はババアの人生だ。ババアが自分で決めるしかない」
「僕は、ラケルが誰かと結婚してもしなくてもどっちでもいいです。でももし生活苦に喘いでメロと結婚するんなら、僕が引きとって生活の援助くらいはしてもいいです」
「だ、そうですよ?」
 わたしがマスクをとってもいいという合図を手で示すと、ラケルさんは赤いばってんの大きく書かれたマスクを外しました。彼女は恥かしさのあまりか暫くの間突っ伏していましたが――そのあと、彼女が泣いているらしいことに気づいて、わたしもメロもニアも一瞬互いの顔を見合わせました。
「ババア、何泣いてんだよ。まさかこれで家族離散とか思ってんじゃねえだろうな。それだったら気にすることないぜ。たぶんLがきっとなんとかしてくれる」
 メロのその言葉を受けると、ラケルさんは顔を上げ、縋るような眼差しでわたしのことを見つめてきました。正直ちょっと、そういう切なげな瞳で見つめ返されるのは、わたしとしてもやりきれないというか――膝の上をぼりぼりかきながら、わたしは彼女から目を逸らすことしかできませんでした。
「まあ、なんにしても今は腹ごしらえが先ですね。ちょっと歩くことになりますが、寿司でも食べにいきますか?」
「寿司か。Lも気前がいいな。俺は日本食の中では一番それが好きだ。でもニアは生もの駄目なんだよな?」
「いいですよ、べつに……ここから歩いていける寿司屋といったらどうせ回転寿司でしょう。僕にも食べられるものはおそらく何かあると思います。それより歩くことのほうがわたしには面倒です」
「歩くったって、たったの七分くらいじゃん。もう何日かしたら日本にはいないんだから、最後に本場の回転寿司とやらを記念に食いにいこうぜ」
 ジーパンの両ポケットに手をつっこむと、わたしは椅子を下りて玄関へ向かうことにしました。メロもニアもわたしに続くようについてきます。ラケルさんは何か、戸棚から財布らしきものを取りだしていたようですが――もちろん、今回はわたしが費用を持つつもりでした。まあ、もしかしたら彼女は、自分が預かっているお金から支払いをするのが当然だと思っていたのかもしれませんけどね。



 >>続く……。




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